投稿者: masako

マーケティングとは、ブランディングである。

具体的な事例とわかりやすい文章でブランドの本質を伝える本書。ブランディング22の法則。

世界の様々な有名企業の事例を学べて、いつのまにかマーケティングの専門家的「ブランディング」発想が身について、読み終わる頃には「さて、じゃあうちのブランドにはどんなイメージを持たせようか…」と頭が回り始めることでしょう。

著者がブランディング戦略専門のコンサルタントなだけあって、実務家の視点と言葉でマーケティング理論の本質を伝える稀有な一冊です。「ブランディングって、、、ロレックスやルイ・ヴィトンやレクサスの世界の話しでしょう?」と、思った方には必読です。

近所のスーパーマーケットの中で勝敗を決めているものこそブランディングなのです 。

売れないものを売る仕掛け

JRの時刻表の売り方が面白い。

インターネットで無料で時刻表検索ができる今、分厚い紙の時刻表など、ほとんど世の中に必要のないものです。それを売れる商品に仕立てるJRの仕掛けが面白い。

「鉄道成分補給!ズゴゴゴオオオ」の振り切ったキャッチコピー。もはや一般のユーザーや紙世代の高齢者は全く眼中になく、鉄道ファンにターゲットを絞りこんで商品設計をしています。

オタク心をくすぐる、日本全国をつなぐ路線図や航空機まで含めた時刻表の掲載、鉄道ファンが共感するようなエッセイの掲載、毎号購入させる鮮度を生み出す臨時便掲載の訴求、ちゃっかり鉄道利用を促すお得な切符の掲載まで。明確にターゲットを鉄道ファンに絞り込み、ターゲットに高く評価される商品設計をしていることがよくわかります。

この時刻表がどれほど売れているかは分かりませんが、JRの売れないものを売る仕掛け作り、ご立派です!

“Purpose”- グローバル企業経営者のHot topic

Purposeを経営戦略の中核に据える。これだけで「なるほどね」と頷いた人は、経営に関するアンテナを相当高く維持していると思う。

Purposeとは、言葉通り目標・目的。企業が、自社のビジネスを活用して、社会課題の解決を目指すことをいう。国連によってSDGsが定められ、企業投資においてもESG(環境・社会性・コーポレートガバナンス)が世界のファンドの投資基準としてスタンダードになりつつある今、企業の社会的責任が今まで以上に問われている。

企業の社会的責任、というと、ひと昔前のCSR(corporate social responsibility)という言葉を思い出すが、PurposeとCSRは全く違う。CSRは、一般的に建前として、企業の体裁を取り繕うための「コスト」でしかないが、Purposeは企業の戦略を方向づけるものであり、より強い企業ブランド、顧客基盤、収益基盤を実現するための「投資」に他ならない。Purposeは、企業が社会の一員として、顧客や投資家などの関係者と自社の関連する社会課題を共有し、その解決のために自社のビジネスを活用して利益を得るもので、企業の大変革を意味する。

ハーバードビジネスレビュー10月号のテーマは「Purpose Branding-そのビジネスは何のために存在するのか、どうすれば社会に貢献できるのか」。ナイジェリアの野菜を食べない食習慣による貧血の多発と戦う、クノールの鉄分強化ブイヨンの発売と野菜摂取を促すキャンペーン、米国および世界の健康問題と戦う(方向に舵を切る)ペプシコの糖類・塩分・脂質を減らした健康的で栄養価の高い飲料製品へのポートフォリオ転換(38%(2006)→50%(2017))、大手ビールメーカーによる、飲酒による女性への暴力撲滅キャンペーンとノンアルコール・低アルコールビールへのシフト、など、世界の経営者は確実に変化を迫られている。

Purposeは、M. E. porter教授のCSV(Creating shared value)や近江商人の三方よしと通じる話だが、どちらも少し問題がある。ポーターのいうCSVは、企業の成長・利益拡大を目的としており、Purposeは企業が利益を獲得する新しい手段でしかない。自社の利益に制限を課すような倫理性・道徳性を提案しているわけではない。一方、三方よしという言葉は強欲さへの戒めにはなっても、社会の課題を(社会に議論を巻き起こしたりしてまで)積極的に提案し、より良い社会を築いていくという社会課題解決の積極性まで含んでいない。

各々アメリカらしい、そして日本らしい概念だと思う。

強欲な利益拡大でも、世間に合わせる事なかれ主義でもなく、自分たちはこの社会をどう変えていくべきだと考えるのか、あなたの事業のPurposeは何か?今、経営者の哲学が問われている。

経常利益率31%のエーワン精密は、何を売っているのか?

日経ビジネス2020年7月20日号に面白い記事がありました。山梨の売上高20億の中堅機械部品メーカー・エーワン精密が、なぜ31%もの売上高経常利益率をたたき出すのか。しかも、「創業以来の売上高経常利益率は平均で約35%(日経ビジネス2019.06.03)」と言うから、さらに驚きます。

大手企業・日本電産からの値下げ要請にも一歩も引かず、一担当者が「それはできません。」と電話を切ってしまう堂々たる対応ぶり。この交渉力の強さの源泉はどこにあるのでしょうか。

実は、エーワン精密は機械部品を売っているのではありません。顧客であるメーカーに「破損した部品をすぐに取り換えてラインを最速で再稼働させる。」という利便性・経済性を売っています。

すなわち、スピードです。

しかも、競合他社では1~2週間かかる製品を最短1日、さらに、加工内容によっては午後3時までに受けた注文を当日出荷することもある、という驚異的なスピードです。

機械部品のモノの価値だけを評価すれば、競合他社より割高な製品ですが、顧客の立場に立ってスピードという価値を評価すれば、多少納品価格が高かろうと、1~2週間も機械の稼働を停止する機会損失に比較すれば、エーワン精機の割高な部品を購入して機械の再稼働を早めることは、十分に合理的な選択なのです。

実際、創業者である梅原氏は、「技術力は確かにあるが、他社にまねできないほど高いわけではない」と語っています。

販売する企業の側では、自分たちの商品は販売している部品そのものととらえがちですが、顧客企業の側からみると、仕入れている部品というのは最終製品の製造のためのプロセスでしかありません。BtoBビジネスであろうと、いかに顧客(納入先)の立場に立って自社の付加価値を高めるかが、利益率を左右します。

今回の日経ビジネスの記事では、人材への集中投資(全従業員が正社員で、緊急の仕事に備えて余剰人員を抱える経営方針)や、納期短縮のための3000種類に及ぶ半製品ストック、設備投資などを「ぜい肉」と表現して「危機に強いぽっちゃり企業」という企画にまとめていますが、実際のところ、エーワン精密は自社の企業戦略を明確に持ち、その実現のために必要な強みに絞り込んだ投資をして高収益体質を実現している、非常に効率的な経営スタイルです。

 

甲府盆地で研ぎ澄まされた光を放つエーワン精密、皆さんの経営のヒントになれば幸いです。

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00176/070300002/

従業員の自主性を引き出す方法

「エンパワーメントは一日にして成らず」(意訳)
という、自律型組織づくりの教科書のご紹介。

従業員に自主的・意欲的に仕事をしてもらうことは、人材の限られた中小企業がみな理想とするところです。権限移譲、ビジョンの共有、よくほめる?etc…やるべきことがなんとなくわかるようで、いざ取り組もうとしても全く成果が見えてこない。。。大半の企業がもどかしい状況にあるのではないでしょうか。

同じ状況から、星野リゾートの星野社長が自律型組織を築き上げた指南書が、こちら。

小説仕立てになっていて、読者は主人公の経営者と一緒に自立型組織づくりの手順とポイントを学べます。
そのポイントとは。。。?

1.客観的な経営指標情報の共有
→顧客満足度の調査結果や客数、客単価、商品の利益率、恥ずかしくても店舗損益情報まで!こうした情報が、従業員が自分で考えるためのベースとなります。

2.ビジョンと個人のミッションの明確化
→会社は、何のために存在しているのか、その会社の存在目的実現のために、自分はどんな役割を果たしていくのか。ここに筋が通ると、スッキリします。

3.組織構造をピラミッドから逆ピラミッドに移行する
→長期戦であり、経営者としては、焦る自分との闘い。覚悟と忍耐が必要。上下意識の強い日本の場合、フラットな人間関係の素地をつくることが、まずは必要です。

ちなみに、日本語タイトルは、なぜか「1分間エンパワーメント」ですが、原書は「エンパワーメントは1分じゃ無理(直訳)」、と、真逆のタイトルです。組織改革は一朝一夕にはできませんよね。
ストーリー仕立てで読みやすいですが、中身は深く、示唆に富む良い本ですよ^ ^

経営者は二度立ち上がる

-柚木治氏(ジーユー社長)
 

日経ビジネスのインタビュー連載記事が面白い。

自分のアイデアで、周囲の反対を押し切ってまで推し進めた野菜事業で26億円の累計損失を計上した柚木氏。

業績が伸びずに赤字が累積し、総スカンの中、柳井氏だけは「まだ続けてもいい」と背中を押してくれたが、初めての大きな失敗に心が折れた柚木氏は開始1年半で事業撤退を決め、自身は退職を選択した。この決断に対し、柳井氏は、「26億円損して、勉強して、それで辞めますですか。まずはお金を返してください。」と。

今、この26億円の損失を出した張本人・柚木氏はファーストリテイリングに留まっている。しかも、ジーユーの社長として。

柚木氏曰く、野菜事業失敗の最大の原因は、自分があきらめたことだという。
当時、柚木氏の妻のアドバイスをはじめとして、事業改善への貴重なヒントは伝えられていたにも関わらず、柚木氏の耳には届かず、柚木氏の自信喪失と共に事業の可能性への自信も失ったように見える。

今、ジーユーの社長となった柚木氏は「仲間と一緒になって人々に驚きを提供し、喜びを分かち合う」という新しい経営者像を目指している。柳井氏のようなスーパー経営者にはなれなくても、「普通の人間でも企業の経営ができる」ことを証明したいという。

野菜事業の時の柚木氏からは、全てを一人でコントロールして一人で全責任を負う、強いリーダー像がうかがえるが、現在の柚木氏からは、もっとフラットで従業員の能力を引き出そうとする謙虚なリーダー像が伺える。

事業の成否=経営者個人の能力という認識では、プライドが経営判断に複雑に絡みつき、いずれ行き詰る。

オーケストラの素晴らしい演奏はオケ(=従業員)の実力が引き出された結果であり、オーケストラの失敗は指揮者(=経営者)の責任、という構図に似ていないだろうか?

日本の普通法人数は約260万社と聞くが、260万人いる経営者のうち、いったいどれくらいの人が柳井氏や孫氏のような超人的な経営センスを持ち合わせているのか。
柚木氏の目指す、「普通の人間」にも手が届く経営者像は、カリスマ経営者神話よりも現実の企業経営の参考になると感じる。

https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00129/052600026/?i_cid=nbpnb_arc
 

ハンブル・リーダーシップ


社会の変化のスピードが激しく、自分が経験したことのない状況にも関わらずスピーディーかつ適切な判断を求められる今の時代、リーダーシップを発揮するのは簡単なことではありません。

ハーバードビジネスレビュー7月号では、そんな悩めるリーダーたちのヒントになる新しいリーダーシップスタイルが紹介されていました。

MITスローン経営大学院のSchein教授が提唱する、
【ハンブル(謙虚な)リーダーシップ】 

リーダーシップをリーダーとフォロワーの関係性で捉えることをやめて、もっと言うと、そもそもの仕事上の役割という関係性を超えて、同じ目的を共有する対等な個人として、ともにプロジェクトの成功を目指します。具体的には、自分では理解できない部分・判断できない部分を素直に伝え、部下(と、言うよりはむしろ対等なチームメンバー)に質問して彼らの知見・意見を求め、議論しながら進めることでプロジェクトを成功に導く。そして、失敗した時にはすべての責任を取る。これが、ハンブル・リーダーの姿、なのだそうです。

チームメンバーの性別、国籍が様々で、年上の部下をマネジメントすることも珍しくなくなった今、リーダーシップのスタイルも変えていく必要があるのは誰もが感じるところです。とは言え、突然アメリカのドラマのようなカジュアルな関係を作るのは難しく、既存の日本的空気を壊さずにスムーズにリーダーシップスタイルを変化させていく方法は誰もが悩むところ。

このハンブルリーダーシップは、日本社会の感覚にもフィットしやすいように感じます。会社の人間関係に当てはめて考えると、これまでの統制型組織の常識から逸脱するのでイメージしにくいですが、個人の関係に当てはめると、至極当然のことを言っています。夫婦や友人との関係は、まさに、自分は完全ではないという謙虚な気持ちをもち、相手を信頼し、尊重し、一緒に考えてより良い答えを導くものです。人として当たり前のことなのに、私たちは、なぜか会社では人間らしくいられないのかもしれません。

興味持たれた方、Schein教授の最新の著書で一緒に学んでみませんか?私もこれから読んで勉強したいと思います^^