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経常利益率31%のエーワン精密は、何を売っているのか?

日経ビジネス2020年7月20日号に面白い記事がありました。山梨の売上高20億の中堅機械部品メーカー・エーワン精密が、なぜ31%もの売上高経常利益率をたたき出すのか。しかも、「創業以来の売上高経常利益率は平均で約35%(日経ビジネス2019.06.03)」と言うから、さらに驚きます。

大手企業・日本電産からの値下げ要請にも一歩も引かず、一担当者が「それはできません。」と電話を切ってしまう堂々たる対応ぶり。この交渉力の強さの源泉はどこにあるのでしょうか。

実は、エーワン精密は機械部品を売っているのではありません。顧客であるメーカーに「破損した部品をすぐに取り換えてラインを最速で再稼働させる。」という利便性・経済性を売っています。

すなわち、スピードです。

しかも、競合他社では1~2週間かかる製品を最短1日、さらに、加工内容によっては午後3時までに受けた注文を当日出荷することもある、という驚異的なスピードです。

機械部品のモノの価値だけを評価すれば、競合他社より割高な製品ですが、顧客の立場に立ってスピードという価値を評価すれば、多少納品価格が高かろうと、1~2週間も機械の稼働を停止する機会損失に比較すれば、エーワン精機の割高な部品を購入して機械の再稼働を早めることは、十分に合理的な選択なのです。

実際、創業者である梅原氏は、「技術力は確かにあるが、他社にまねできないほど高いわけではない」と語っています。

販売する企業の側では、自分たちの商品は販売している部品そのものととらえがちですが、顧客企業の側からみると、仕入れている部品というのは最終製品の製造のためのプロセスでしかありません。BtoBビジネスであろうと、いかに顧客(納入先)の立場に立って自社の付加価値を高めるかが、利益率を左右します。

今回の日経ビジネスの記事では、人材への集中投資(全従業員が正社員で、緊急の仕事に備えて余剰人員を抱える経営方針)や、納期短縮のための3000種類に及ぶ半製品ストック、設備投資などを「ぜい肉」と表現して「危機に強いぽっちゃり企業」という企画にまとめていますが、実際のところ、エーワン精密は自社の企業戦略を明確に持ち、その実現のために必要な強みに絞り込んだ投資をして高収益体質を実現している、非常に効率的な経営スタイルです。

 

甲府盆地で研ぎ澄まされた光を放つエーワン精密、皆さんの経営のヒントになれば幸いです。

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00176/070300002/