月別: 2020年9月

売れないものを売る仕掛け

JRの時刻表の売り方が面白い。

インターネットで無料で時刻表検索ができる今、分厚い紙の時刻表など、ほとんど世の中に必要のないものです。それを売れる商品に仕立てるJRの仕掛けが面白い。

「鉄道成分補給!ズゴゴゴオオオ」の振り切ったキャッチコピー。もはや一般のユーザーや紙世代の高齢者は全く眼中になく、鉄道ファンにターゲットを絞りこんで商品設計をしています。

オタク心をくすぐる、日本全国をつなぐ路線図や航空機まで含めた時刻表の掲載、鉄道ファンが共感するようなエッセイの掲載、毎号購入させる鮮度を生み出す臨時便掲載の訴求、ちゃっかり鉄道利用を促すお得な切符の掲載まで。明確にターゲットを鉄道ファンに絞り込み、ターゲットに高く評価される商品設計をしていることがよくわかります。

この時刻表がどれほど売れているかは分かりませんが、JRの売れないものを売る仕掛け作り、ご立派です!

“Purpose”- グローバル企業経営者のHot topic

Purposeを経営戦略の中核に据える。これだけで「なるほどね」と頷いた人は、経営に関するアンテナを相当高く維持していると思う。

Purposeとは、言葉通り目標・目的。企業が、自社のビジネスを活用して、社会課題の解決を目指すことをいう。国連によってSDGsが定められ、企業投資においてもESG(環境・社会性・コーポレートガバナンス)が世界のファンドの投資基準としてスタンダードになりつつある今、企業の社会的責任が今まで以上に問われている。

企業の社会的責任、というと、ひと昔前のCSR(corporate social responsibility)という言葉を思い出すが、PurposeとCSRは全く違う。CSRは、一般的に建前として、企業の体裁を取り繕うための「コスト」でしかないが、Purposeは企業の戦略を方向づけるものであり、より強い企業ブランド、顧客基盤、収益基盤を実現するための「投資」に他ならない。Purposeは、企業が社会の一員として、顧客や投資家などの関係者と自社の関連する社会課題を共有し、その解決のために自社のビジネスを活用して利益を得るもので、企業の大変革を意味する。

ハーバードビジネスレビュー10月号のテーマは「Purpose Branding-そのビジネスは何のために存在するのか、どうすれば社会に貢献できるのか」。ナイジェリアの野菜を食べない食習慣による貧血の多発と戦う、クノールの鉄分強化ブイヨンの発売と野菜摂取を促すキャンペーン、米国および世界の健康問題と戦う(方向に舵を切る)ペプシコの糖類・塩分・脂質を減らした健康的で栄養価の高い飲料製品へのポートフォリオ転換(38%(2006)→50%(2017))、大手ビールメーカーによる、飲酒による女性への暴力撲滅キャンペーンとノンアルコール・低アルコールビールへのシフト、など、世界の経営者は確実に変化を迫られている。

Purposeは、M. E. porter教授のCSV(Creating shared value)や近江商人の三方よしと通じる話だが、どちらも少し問題がある。ポーターのいうCSVは、企業の成長・利益拡大を目的としており、Purposeは企業が利益を獲得する新しい手段でしかない。自社の利益に制限を課すような倫理性・道徳性を提案しているわけではない。一方、三方よしという言葉は強欲さへの戒めにはなっても、社会の課題を(社会に議論を巻き起こしたりしてまで)積極的に提案し、より良い社会を築いていくという社会課題解決の積極性まで含んでいない。

各々アメリカらしい、そして日本らしい概念だと思う。

強欲な利益拡大でも、世間に合わせる事なかれ主義でもなく、自分たちはこの社会をどう変えていくべきだと考えるのか、あなたの事業のPurposeは何か?今、経営者の哲学が問われている。